乾杯！！ジョッキー
ドン底から築き上げた穴男・江田照

　「テル、おめでとう。」

　前走では他馬の猛追を何とかしのぎ２着を確保、優先出走権を獲得した。「馬群に沈むと思ったけど巻き返した。ステイヤーの血を感じるね。」と、テン乗りでのレースを笑顔で振り返った。

　デビュー２年目の１９９１年にプレクラスニーで天皇賞（秋）を制覇。順風満帆に見えた騎手生活もそれ以降勝ち星が伸びず、１９９５年はわずか１２勝に終わった。

　「本気で辞めようかと思った。だけど、周りがチャンスをくれた。」

　勝ち星が少ないから、人気薄の馬でも結果を出さなければならない。そのために陣営から前もって話を聞き、返し馬で状態を把握した。

　「どうすれば能力を出せるか。」

　そればかり考えた。必死だった。そうやって感覚を磨くうちに「穴の江田照」と親しまれ、Ｇ１・２勝を含む通算５３１勝（２００３年１０月２０日現在）を挙げる騎手になった。「偶然でしょ」と謙虚に話すが、そうではない。穴は偶然でなく、必然だった。

　菊花賞は強豪馬が顔を並べるが、「中途半端はしたくない。持ち味を出せれば結果はついてくる。」と、気後れする様子はない。帰り際、また「おめでとう」と声を掛けられていた江田照。だが、来週はこんな声を掛けられているかもしれない。

　「テル、菊花賞おめでとう。」

　そうなっても、決して偶然ではない。

（終わり）

　「穴の江田照」誕生秘話です。他の雑誌などでも読んだことがありますが、この１２勝しか出来なかった９５年は相当苦しかったそうで。でも、この苦しみがあったからこそ、今の照男さんがあるのだと私は思います。

　菊花賞は、セントライト記念と比べて相手はかなり強くなりますけど、悔いの残らないレースをしてほしいですね。